街の鎮魂歌
夕暮れ
ななめに伸びる影に手がふれた
窓をみれば片隅に映る小さなわたしをみた
待つばかりのわたし
泣いてもすねてもひとり
遠くをみつめる瞳に色は浮かんでいない
思い浮かべたのは窓のむこうのずっと先
たとえば
異国の人混み
草原をかける動物の影
図鑑や映画でみた景色に夕日を重ねた
しずみゆく
いくつもの夕日を前にして
ゆるやかにまわる空と時をみた
わたしとは関係なく
わたしがうまれる前も
わたしがなくなった後も
空と時はまわっているように思えた
この世界は
たぶん
宇宙がうまれる前から
宇宙がなくなった後も
ゆっくりとまわっている
だとしたら
宇宙はまたうまれるだろう
わたしもまたうまれるだろう
たくさんの偶然と選択が必要だとしても
まわりつづけるのだから
待つだけの時間は
わたしがわたしだと思うまである
わたしはまわる流れのいまに座っている
このおぼれるだけの流れの先と後
いくつもの宇宙がうまれ
いくにんものわたしが遠くをみつめている
いつしか
日はしずんでいた
窓のむこう
ともる明かりがにじんでみえた